轻松读懂日语经典作品
ja-reading.com
轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。
きくちよしょう
菊千代抄
山本 周五郎
「週刊朝日春季増刊」朝日新聞社、1950(昭和25)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,178 字 · 72 页
前庭には松や栗や楢などの林があり、その端に立つとひろい谷峡が眺められる。流れの早い川に沿って、白い道が遠く山の彼方へと延びているが、それは嵩間から山越しに北陸道へ通じているそうで、しかしあまり人の往来はなく、みかけるのは多く付近の郷村の者であった。
菊千代は弥市だけ伴れて、馬で領内をまわったり、弓を持って森から山へわけ入ったりした。常陸人は頑固で意地がつよいと聞いていたが、山村の人々にもそういう気風があって、館主と知っても不必要な騒ぎはしない。菊千代はたびたび出先で弁当をつかったが、ごく貧しい農家などでもさほどおそれかしこむようなふうはなかった。二度、三度とたち寄るうちには、老人などが気楽に世間話をしかけたり、また弁当の菜や汁を作って出したりした。
「お口には合いますまいが、召上って頂こうと思ってこしらえたですから」
そんなふうに云って、塗の剥げた椀や欠け皿などを並べる。焼干しの川魚と野菜を煮たもの、味噌汁、古漬けのたくあん。たいていこういったもので、なるほど菊千代の口には合わなかった。ただかれらの好意を無にしたくないだけで箸をつけたのであるが、馴れれば屋形の料理とは違った風味があり、やがて出されたものは余さず喰べるようになった。