轻松读懂日语经典作品
ja-reading.com
轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。
なおこ
菜穂子
堀 辰雄
楡の家 第一部「物語の女」山本書店、1934(昭和9)年11月<br> 楡の家 第二部「文学界」1941(昭和16)年9月号<br> 菜穂子「中央公論」1941(昭和16)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 88,758 字 · 173 页
「僕、もう……」とだけ言葉を掛けた。
菜穂子はさっきと同じように目をつぶった儘、相手が何を云い出そうとしているのか待っていたが、それきり何も云わないので、目をあけて彼の方を見て漸っと彼が帰り支度をしているのに気がついた。
「もうお帰りになるの?」菜穂子は驚いたようにそれを見て、あまりあっけない別れ方だと思ったが、べつに引き留めもしないで、寧ろ何物かから釈き放されるような感情を味いながら、相手に向って云った。「汽車は何時なの?」
「さあ、それは見て来なかったなあ。だけど、こんな旅だから、何時になったって構いません。」明はそう云いながら、はいって来たときと同様に、鯱張ってお辞儀をした。「どうぞお大事に……」
菜穂子はそのお辞儀の仕方を見ると、突然、明が彼女の前に立ち現われたときから何かしら自分自身に佯っていた感情のある事を鋭く自覚した。そして何かそれを悔いるかのように、いままでにない柔かな調子で最後の言葉をかけた。
「本当にあなたも御無理なさらないでね……」
「ええ……」明も元気そうに答えながら、最後にもう一度彼女の方へ大きい眼を注いで、扉の外へ出て行った。