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なおこ

菜穂子

堀 辰雄

楡の家 第一部「物語の女」山本書店、1934(昭和9)年11月<br> 楡の家 第二部「文学界」1941(昭和16)年9月号<br> 菜穂子「中央公論」1941(昭和16)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 88,758 字 · 173 页

青空文庫

十三

十三

おようがO村から娘の初枝の病気を東京の医者に治療して貰うために上京して来ている。――そんな事を聞いて、七月から又前とは少しも変らない沈鬱そうな様子で建築事務所に通っていた都築明が、築地のその病院へ見舞に行ったのは、九月も末近い或日だった。

「どんな具合です?」明は寝台の上の初枝の方をなるべく見ないように気を配りながら、おようの方へばかり顔を向けていた。

「有難うございます――」おようは山国の女らしく、こんな場合に明をどう取り扱って好いのか分からなさそうに、唯、相手をいかにも懐しげに眺めながら、その儘口籠っていた。「なんですか、どうも思うように参りませんで……。誰方に診て頂いても、はっきりした事を云って下さらないので困ってしまいます。いっそ手術でもしたらと、思い切ってこうして出て参りましたが、それも見込み無いだろうと皆さんに云われますし……」

明はちらりと寝ている初枝の方を見た。こんな近くで初枝を見たのははじめてだった。初枝は、母親似の、細面の美しい顔立をし、思ったほど窶れてもいなかった。そして自分の病気の話をそんな目の前でされているのに、嫌な顔ひとつしないで、ただ羞しそうな様子をしていた。