轻松读懂日语经典作品
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なおこ
菜穂子
堀 辰雄
楡の家 第一部「物語の女」山本書店、1934(昭和9)年11月<br> 楡の家 第二部「文学界」1941(昭和16)年9月号<br> 菜穂子「中央公論」1941(昭和16)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 88,758 字 · 173 页
この数日、日が山にはいると急に大気が冷え冷えとしてくるので、いつも私が夕方の散歩から帰るまでに爺やに暖炉に火を焚いて置くように云いつけてあったが、その日に限って爺やは他の用事に追われて、まだ火を焚きつけていなかった。私はいますぐにもその手帳を暖炉に投げ込んでしまいたかったのだ。が、私は傍らの椅子に腰かけたまま、その手帳を無雑作に手に丸めて持ちながら、一種苛ら立たしいような気持で、爺やが薪を焚きつけているのを見ている外はなかった。
爺やはそういう苛ら苛らしている私の方を一度も振りかえろうとはせずに、黙って薪を動かしていたが、この人の好い単純な老人には私はそんな瞬間にもふだんの物静かな奥様にしか見えていなかったろう。……それからこの夏私の来るまで此処で一人で本ばかり読んで暮らしていたらしい菜穂子だって私にはあんなに手のつけようのない娘にしか思われないのに、この爺やには矢っ張私と同じような物静かな娘に見えていたのだったろう。そしてこういう単純な人達の目には、いつも私達は「お為合わせな」人達なのだ。私達がどんなに仲の悪い母娘であるかと云う事をいくら云って聞かせてみても此人達にはそんな事は到底信ぜられないだろう。