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なおこ

菜穂子

堀 辰雄

楡の家 第一部「物語の女」山本書店、1934(昭和9)年11月<br> 楡の家 第二部「文学界」1941(昭和16)年9月号<br> 菜穂子「中央公論」1941(昭和16)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 88,758 字 · 173 页

青空文庫

もう夜もだいぶ更けたらしく、小屋の中までかなり冷え込んできていた。さきに寝かせてあった爺やがもう一寝入りしてから、ふと目を覚ましたようで、台所部屋の方から年よりらしい咳払いのするのが聞え出した。私達はそれに気づくと、もうどちらからともなく暖炉に薪を加えるのを止めていたが、だんだん衰え出した火力が私達の身体を知らず識らず互に近よらせ出していた。心と心とはいつか自分自分の奥深くに引き込ませてしまいながら……

その夜は、もう十二時を過ぎてから各自の寝室に引き上げた後も、私はどうにも目が冴えて、殆どまんじりとも出来なかった。私は隣りのお前の部屋でも夜どおし寝台のきしるのを耳にしていた。それでも明け方、漸く窓のあたりが白んでくるのを認めると、何かほっとしたせいか、私はついうとうとと睡んだ。が、それからどの位立ったか覚えていないが、私は急に何者かが自分の傍らに立ちはだかっているような気がして、おもわず目を覚ました。そこに髪をふりみだしながら立っている真白な姿が、だんだん寝巻のままのお前に見え出した。お前は私がやっとお前を認めたことに気がつくと、急におこったような切口上で云い出した。