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あしはみていた

葦は見ていた

山本 周五郎

「週刊朝日」1947(昭和22)年6月22日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,985 字 · 36 页

青空文庫

そのとき鐘が鳴りやんだ。最後に撞かれた一音が、ゆっくりと、余韻を残して消えた。その消えかかる余韻のなかで、計之介が叫んだ。

「これでもか」

そして彼は斬り込んだ。

刀をふりかぶり、足場も計らずに、ただ真向から斬り込んだ。東次郎は左へ躱しながら刀を抜いた。計之介は踏み止り、振返るとすぐに突を入れた。東次郎は右へ躱した。計之介はまた斬りつけた。こんどは上段から打ちおろし、それを返して横に払った。

「よせ、藤吉」と東次郎が叫んだ、「きさま気でも狂ったのか」

計之介はまたとびかかった。東次郎は横へ身をひらきながら、すばやく計之介の足を(自分の足で)すくった。計之介はのめっていって転倒した。彼の手から刀が飛んだ、彼は倒れたまま起きようともせず、みじめな声で叫んだ。

「斬れ、杉丸、斬ってくれ」

東次郎はこっちから眺めていた。

「斬ってくれ、斬らないのか」

東次郎は刀を鞘におさめ、身支度を解いた。そして、濡れた足袋をぬいで草履をはき、足袋は懐紙に包んで袂へ入れた。彼はそのあいだも計之介から眼をはなさず、やがて、草むらの中から計之介の刀を拾いあげると、静かに近よっていって呼びかけた。