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あしはみていた

葦は見ていた

山本 周五郎

「週刊朝日」1947(昭和22)年6月22日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,985 字 · 36 页

青空文庫

六

――いやとは云わさんぞ。

――場所と時刻を云え。

――あさっての朝の五時、観音寺の丘で会おう。

六

「その明くる朝、――杉丸の来てくれた、明くる朝のことだ」と計之介は云った、「眼がさめてみると女がいない、手洗いにでもいったか、起きて朝の支度でもしているのかと思ったが、いくら待っても音もけはいもしない、ふっと気がついて、女の夜具をさぐってみた、するとそれがすっかり冷たくなっている、おれは逃げたなと直感した、それまでそんなことは考えもしなかった、女が逃げるかもしれないなどということは、爪の尖ほども疑ったことはなかった」

それにも拘らず、彼は「女が逃げた」と直感した。

――だがそんなことはある筈がない。

計之介は自分の直感をすぐにうち消した。たぶん金でも都合しにいったのであろう、自分でそう思いなだめて、苛いらしながら待っていた。もちろんおひさの帰るようすはない、午後になると矢も楯も堪らず、彼は木花町へでかけていった。そして女の住込んでいた家や、出先の茶屋を(外聞も忘れて)訊きまわった。女はどこにもいなかった。計之介は酒を飲んだ、馬子や人足などのいる店で、いやな匂いのする酒まで飲み、悪酔いをして、家へ帰るとそのまま酔いつぶれた。