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あしはみていた
葦は見ていた
山本 周五郎
「週刊朝日」1947(昭和22)年6月22日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,985 字 · 36 页
「おれは恥ずかしい、ただもう恥ずかしい」
「うちへゆこう」と東次郎が云った、「うちへいって朝飯を食おう」
「ゆける筈はないじゃないか」
「ゆけなくってさ」と東次郎が云った、「いま藤吉は恥ずかしいと云った、しかしそれはちがう、恥ずかしいというのは昨日までの藤吉だ、いまの藤吉には恥ずかしいことなんかありゃあしない、いっしょにゆこう」
「有難いが、それだけはできない」
「おれはつれてゆくよ」
「それは残酷だ」と計之介は云った、「あれだけの醜態をさらして、ほかの人たちはともかく、深江さんの前へ出られる道理がない、それはあんまり残酷だ」
「いっしょにゆこう」東次郎は云った、「腫物を切開するときには、思いきって、一遍にやるものだ、なし崩しにやっても痛みが減りはしない、恥ずかしいおもいも一遍にしてしまえ、そうすればさっぱりするよ」
計之介は不決断に頷いた。
「さあゆこう」と東次郎が云った、「おれがうまくやるよ」
二人は歩きだした。空はすっかり明るくなり、風のために、もう霧も殆んど吹きはらわれていた。丘の下り口までゆくと、朝の光りをあびた城下町の向うに、鶴ヶ岡の森と、城の天守閣が爽やかに眺められた。