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あざみ
薊
山本 周五郎
「小説新潮」新潮社、1959(昭和34)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,800 字 · 32 页
と号されていて、家中や城下町の数寄者たちが、しばしば茶会を催すので知られていた。
岡野に決闘を挑んだ日から七日めに、ゆきをは「茶会があるから」と云ってでかけたが、半刻ほどまをおいて、銕太郎も妻のあとを追って家を出た。
岡野に決闘を挑んだのは、むろん本気ではなかった。妻の云った言葉から、岡野が「なにか」を知っており、ぎりぎりまで追い詰めれば、そのことを告白するだろう、と思ったからであった。結果は推察したとおりになったけれども、「茶会」ということがわかっただけで、それがどういう意味であるかは不明だった。
――むろん御承知でしょう。
岡野はそう云ったし、あの場合それ以上問い詰めるのは、こちらの弱味を曝すようでできなかった。茶会にその「なにか」があるとすれば、いって慥かめてみるほうがいい。銕太郎はこう思って、その機会を待っていたのであった。彼も望翠楼はよく知っていたし、たいていの人の気づかない、裏道のあることも心得ていた。それは松や桜や雑木林の中をぬける急勾配の坂で、岩に踏段が刻ってあるだけだから、雨のときなどは滑って、とうてい登り下りはできないし、ふだんでも、両側からかぶさっている木の枝が邪魔になるのと、勾配が急すぎるため、殆んど使われることはなかった。