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ばらとみこ
薔薇と巫女
小川 未明
「早稲田文學」1911(明治44)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,174 字 · 15 页
二
足許を見ると其処、此処に一個宛夢のように色の褪めた花が咲いている。白でもない。青でもない。薄黄色な倦み疲れた感を催させるような花であった。その黄色な花の咲いている草の葉は沙地に裏を着けていた。葉の色さえ鮮かでない。
単に葉は漠然として薄墨色に見えた。その花は、何の花であるか名を知らないが、海の辺に咲いている花の種類であると思った。
この沙原の先は海ではあるまいか。
暫らく、道の上に立って、遠くに響く波音を聞き取ろうとした……何の音も聞えて来ない。人も来なければ、犬の啼声もしないのである。
けれど彼は、足に委せて行ける処まで行こうと思った。いつしか細い道は、何処にか消えて、自分は道のない沙原を歩いている。
二
ふと、彼は、この時清水の湧き出る音を聞き付けた。この沙原に清水のあることが解った。水の音は何方からともなく聞えて来る。耳を左に傾ければ左の方に当って聞えた。その方へと歩んで見ると、水の音は、どうやら右の方に当って聞える。地底から湧き出て、沙を吹き上げる泡立つ音は、さながら手に取るように聞えて来る。その時右の方に歩みを変えた。すると水の音は、後方になって、次第に遠ざかるようにも思われた。