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ばらとみこ
薔薇と巫女
小川 未明
「早稲田文學」1911(明治44)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,174 字 · 15 页
五
五
彼は、秋の末に南方のXの町に着いたのである。
白壁造の家は夢のように流れの淵に並んでいた。水は崖の下に咽んでいた。水色の夜の空は、白い建物の間から露れ出て、星は穿たれた河原の小石のように散っている。瓦や亜鉛の家根の上を月の光りが白く照した。
彼は、この白い静かな町の中をあてなく歩く小犬のように、白い乾いた往来の上に、みすぼらしい影を落してさ迷った。而して巫女の家を見舞おうと思った。
或日、遂にその旧家を見出すことが出来た。町から程隔った小高かな処にある。彼は、月の冴えた晩にその家の門に辿り着いた。
もはや、話に聞いた彼の利巧な老人は死んでしまったという。幾年前に死んでしまったのか分らない。何んでも或日、老人は門の扉に倚りかかって、横木に手をかけた儘、堅く死固っていたということだ。今は、誰も門を護る人がないと見える。半ば朽ちた大きな灰色の門は左右に明け放された儘、空しく青い月の光りを通していた。奥深く繁った木立は、今や葉が落ち尽している。黒く悪魔のように立っているのは常磐木の森であった。
最初Xの町の人に聞くと、「幽霊家敷」を問うのだと言った。