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とうくろうのしま

藤九郎の島

久生 十蘭

「オール讀物」1952(昭和27)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,765 字 · 19 页

青空文庫

四

甚八と仁一郎の二人がそれにとりつき、岩穴の前に立って大段に振りたてた。

「その船、待て、助けてくれ」

「おうい、その船え」

岩穴のまなかい、沖合八里ほどのところを、おどろくような帆数をあげた見馴れない船が、空を飛ぶかというような勢いで北東に走っている。舳先がこちらに向くかと思ったが、それは眼のあやまりで、須臾のうちに白い一点になり、間もなく、それも見えなくなってしまった。

四

麾を投げだし、甚八と仁一郎が気抜けしたような顔で坐っているところへ、平三郎がぼんやり山から降りてきた。

「これで運はきまった。この十年、藻草をせせって力んでいたのは、いつか国に帰れるという望みがあったればこそだが、こういう成行では、辛い思いをして、無理に生きてゆくことはない。おれは海へ身を投げて死ぬ。生身ではかなわぬなら、魂だけでもいまの船にあずけ、新居の港まで送ってもらうつもりだ。お船頭、それから、甚八ぬし、仁一郎ぬし、ながながお世話になったが、これがお別れ、どうか達者で暮してくだされ」

岩穴の口で、うつらうつらしていた左太夫が、平三郎のそばへ這い寄ってきた。

「平三郎、話はそこで聞いていたが、死ぬというのは悪い料簡だ。