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じゃせいのしゅうねん

蛇性の執念

大倉 燁子

「踊る影絵」柳香書院、1935(昭和10)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,981 字 · 38 页

青空文庫

あんな厭な武雄と――』

『分ってますよ。でも今更そんな事は仰しゃらない方がようございますよ』

『政略結婚! 親の犠牲になったのですわ。でも一番悪いのは私です。私の意志が弱かったからこそ、こんな悲しいことになってしまったんです。意気地なしだからです。馬鹿だからです』

綾子さんはハンケチを歯で破きながらいい続けます。

『ああそれにつけても文夫さえ自殺してくれなかったら――。何故文夫は死んだんでしょう? 先生、私はその原因が知りたいんです。真実のことがね、死ななければならない事情があるなら、私にだけは話してくれてもよかったと思いますわ。黙って独りで死ぬなんて――。それをどんなに口惜しく思っているか、先生、私の気持お分りになりますでしょう?』

綾子さんは段々興奮して声が大きくなるので、それを押し静めようとして、

『誰か来ましたよ。綾子さん、人に聞えるといけないから』

私はとっさに思いついて、そんなでたらめを云い、耳を聳てたんです。すると綾子さんは涙を拭きながら立ち上って、

『武雄が帰ったのかも知れません。あの人ほんとに猜疑心が強いのよ』

綾子さんは襖を開けて廊下を見ましたが、誰もいないのでまたもとの席に戻ってまいりました。