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じゃせいのしゅうねん
蛇性の執念
大倉 燁子
「踊る影絵」柳香書院、1935(昭和10)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,981 字 · 38 页
所がお酒と女とで間もなく無一文とおなりになって、文夫様がお生れになった翌年、突然帰っていらして強請始めなすったのだそうでございます。
間もなく大旦那様は御用で北海道へ御旅行になり、大奥様は東京がうるさいからと仰しゃって文夫様をお連れになり箱根の御別荘へ行らっしゃいました。そこへ弟様がこっそりお訪ねになったのでございます。
始めは何気ない四方八方のお話を遊ばしていらしたのですが、軈て印度で飼い馴らしたという恐しい毒のある黒蛇の籠を出してお見せになり、これを放すと直ぐ人の首筋に噛みつくの、これに噛まれると見る間に顔が変り、二た目と見られない癩病患者のようになるのと、そろそろ大奥様をお脅かしになり、遂々無体な真似をなさろうと遊ばすので、大奥様は急に怖しくなって、その場を逃げ出そうとなさるのを、弟様は力強い手でむずと肩を掴かみ、扉の隅に押しつけて、熱い息を首筋に浴せながら、
「そんなに厭なんですか、私は真剣なんです、命を投げ出しているんですよ。死ぬ覚悟で――。あなたは私の心を、この私の思いをむざむざと踏みにじってしまう気なんですか。今日の日の来るのを、ああ私は何年待っていたと思います?」