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じゃせいのしゅうねん

蛇性の執念

大倉 燁子

「踊る影絵」柳香書院、1935(昭和10)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,981 字 · 38 页

青空文庫

弟様の眼からは涙がこぼれて頬を伝わりました。大奥様はまるで電気にでもかけられたように足がすくみ、身動きも出来なくなり、弟様の勢にすっかり威圧されておしまいになりました、昔の人のいう魔がさしたとでも申すのでしょうか。お心では憤りに燃えていらっしゃるにもかかわらず、この我武者らな、気狂いのように熱愛する弟様の暴力に一種の魅力をさえ感じたと仰しゃいました。そしてまるで無抵抗で、あの方の思うままになっておしまいになりました。

しかしそれはほんの通り魔のような過失で、全く一時の感情で、弟様に対して新らしい愛情が起ったのではございません。その証拠にはその時以来、弟様に対する憎悪の念は益々深くなり、仇敵のような間柄におなりになったと仰しゃいました。殺してもあきたらない人だ、恐しい悪魔だと大奥様は身震いなさりながらお泣きになりました。

不運にも御姙娠なすって、煩悶は更に加わりました。そこへ間もなく大旦那様の御変死という事件が起ったのでございます。

大旦那様は弟様と御一緒に猟にお出かけになりまして、断崖から谷底へお落になり、大怪我を遊ばしてお亡くなりになったということになって居ます。