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へび

蛇

森 鴎外

「中央公論 第二十六年第一号」1911(明治44)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,073 字 · 23 页

青空文庫

「わたしなんぞもそれ程まで踏み込んだ考を持っているわけではありませんよ。先頃もフランスで誰やらが、英国の笞刑が好結果を奏していると新聞に書いた。すると、Bernard Shaw がわざわざ反駁書を出しました。兎に角打つなんということは非常手段ですから、教師だから打っても好い、夫だから打っても好いというように、法則にして置くのは不都合でしょう。」

「なるほどそうでしょう。兎に角わたくしもある場合には打っても好いという位な、堅固な意思を持っていましたら、可哀相に妻をあんな物にはしませんでしたろう。ああ、亡くなった母も気の毒ですが、妻も実に気の毒です。」

主人はじっと考え込んでいる。

己は問うた。「一体気の変になられたのは、どう云う動機からですか。」

腕組みをしていた清吉爺いさんが、手をほぐして膝を進めた。「実に申し上げにくい事でございますが、先生が理学博士でいらっしゃると承りまして、お泊りを願うことが出来ましたら、それを伺って見たいと存じておりましたのでございます。初七日の晩でございました。奥さんが線香を上げに、仏壇を覗かれますと、大きな蛇のとぐろを巻いていましたのが、鎌首を上げて、じっと奥さんのお顔を見たそうでございます。