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しじみだに
蜆谷
山本 周五郎
「新読物」公友社 、1947(昭和22)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,957 字 · 28 页
……ちょうどお直の年になったのだな、そう気がついた彼は、釜戸のほうに気を配りながら、去っていった妻のことをきいた。
「え、お直さんは泣いていました」お八重も声をひそめながらささやいた、「でもあのひとはあのとおりおとなしいから、どうしてもここにいると云いはれなかったのでしょう、家へ帰っても泣いてばかりいたと聞きました」
「いまどうしているか知らないか」
「このごろはどうしていらっしゃるか、多賀の宮の秋祭りにはきれいにおつくりをして、お姉さん達とお詣りにゆくのを見ました」
「出ていってから、いちどもここへは来なかったんだね」
「来たかったんでしょうけれどね」
お八重はそこでまたお直がおとなしいから、親きょうだいに云いこめられてどうしようもなかったのだろうと云った。たしかにそうだろう、自分の意志というものをもたないかと疑がわれるほど、お直は従順いっぽうのおとなしい女だった、……たしかにそれはそうだが。
「弥之さんこれからどうするの」お八重はこう云って眼をあげた、「あなたの帰ったことを知れば、村の人たちはきっと黙っていないわ」
「佐和山へ訴えるとでも云うのか」
「おばさんにこんなひどいことをしてきたのだもの、あなたが帰って来れば仕返しをされると思うに違いないわ、お直さんとのことだってこのままじゃすまないでしょう、だからきっと訴える