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しじみだに
蜆谷
山本 周五郎
「新読物」公友社 、1947(昭和22)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,957 字 · 28 页
三
そして今年の夏、東海道に各駅伝馬の制が定められ、彦坂小刑部がその事業の宰領にあった縁から、近江の水口駅の伝馬問屋へはいり、その検荷役になることができた。……これで身のおちつきがきまった、事情によったら母と妻をつれ出して来られる、そう思うと矢も盾もたまらなくなり、危険をおかして帰ったのであった。
そのころ佐和山へは井伊直政という大将が新しい領主として就封して来た。治部少輔の旧直領として厳しい御詮議だったというから、新領主の法度は重いものに、違いない、家や田畑はどうなったろう、母や妻はどんな身の上に落ちたろうか、そういう不安とおそれに心をおののかせて帰って来たのだが、事実はまったく予想に反していた。田畑もほとんど失い家財道具もなくなった、母は老いの身で蜆をとり、二里さきの城下まで売りにいって、かつかつ稗粥をすすって生きていた。しかしそれは領主が変わったためでもなく、治部少輔直領の民だったからでもない、原因はすべて村人たちにあった、負けいくさとなったときから、村人たちは寝返りを打つように態度を変えたのである。
三
関ヶ原の合戦が終わると、田中兵部という大将がこの付近の監察に当たり「石田軍の兵となって出陣した者、また敗戦後に帰村した者は届け出るように、もし秘して匿まうような場合は屹度申しつけるであろう」