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しじみだに
蜆谷
山本 周五郎
「新読物」公友社 、1947(昭和22)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,957 字 · 28 页
五
「やってみる」弥之助はひらいた手を固く握りしめながら云った、「人間はあるばあい、自分や家族の安全をはかるまえに、しなければならぬことがあるもんだ、そういうときにぶつかったら、やっぱりそのほうを先にするのが本当だ、おれはゆうべひと晩、眠らずに考えてきめたことがある、そいつをやってみるつもりだ」云い終わるとすぐ弥之助は立って納戸へはいっていった。そこへげん女があがって来た。
五
弥之助はその午後になってどこかへ出かけた、そしてそれっきり帰らなかった。げん女は落胆のあまり気のぬけた人のようになり、お八重が来てしてやらなければ粥もこしらえず一日じゅう納戸で横になっていた。すると七日めになって、村名主の川延源兵衛がやって来た。陣屋からお召状が来たという、なにやらおちつかない不安そうなようすだった。
「お召状はわたしに来たんですか」
「おまえさんにだ、庄屋と村名主、地子総代がいっしょに出ろということだ」源兵衛はこう云ってげん女の眼を見た。
「ことによると弥之さん捕まったのかもしれない」
「弥之助が捕まった」
「これだけつき添っておまえさんに出ろというのは、そのほかにわけのありようがない、もしそうだとしたら、はっきり断わっておくがお直とこの家との縁はもう切れているんだよ、一年まえにちゃんと縁が切ってあるんだからな、それを忘れちゃあ