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しじみだに

蜆谷

山本 周五郎

「新読物」公友社 、1947(昭和22)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,957 字 · 28 页

青空文庫

た、私ぁそのつもりでいたんだ、負けるか勝つかそんなことは知らない、御領主さま一代のたいせつな合戦だというから、そしてこの村からも誰か出ずにはすむまいと思うから出た、百に七十は生きては帰れまい、けれど討死をしても母や女房の困るようなことはないだろう、村でなんとか世話をしてくれるだろうと安心していた……田地山林より蜆谷より、私のほしかったのはその約束だった、息子が戦場へ出て負けいくさになった、生き死にもわからない、年寄ひとりあとに残ってどうしたらいいか、めいめい自分につもって考えるがいい、合戦を始めたのは私じゃないんだ、負けたのも私のせいじゃない、ましておふくろになんの罪があるんだ、蜆谷も田地も私はいらない、その代わり二年間のおっ母さんの苦労を返してもらいたい、こんなみじめに老い衰えた姿を、むかしのおっ母さんに返してもらいたいんだ」

お八重が泣きげん女が泣いた。

そして村人たちの頭を垂れ手を膝におろして息をつけずにいる席のうしろで、お直の声をふり絞りながら泣き伏すのがみえた。

「お直、こっちへおいで」弥之助は眼がしらをふきながら呼んだ、「おまえは家の嫁だ、ここへ来てお坐り。