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しじみだに
蜆谷
山本 周五郎
「新読物」公友社 、1947(昭和22)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,957 字 · 28 页
二
二
「蜆をとりにいったのさ、そして御城下まで売りにいって来たのさ」母の話はそこから始まった、「もうながいことそれでしのいできた、田も畑も売った、着る物も家財道具も売れる物はみんな売ったあげくただ頼りになってくれたのは西畑のお八重さんひとり、あとは村じゅうが敵になってしまった、もう生きるちからもなくなっていたところだ」
彼は歯をくいしばりながら聞いていた。安油の焦げる音が雪になった夜のしじまに悲しい呟やきをあげている。
……ここはもと佐和山城のあるじ石田三成の領分であった、二年前慶長五年七月、領主一代の合戦があるため、心ある者は陣へまいって働くようにという布令がまわった。徴発でないために、たいていの者は見ぬふりをしていたが、この蜆谷からは彼と西畑の又二郎と、川端の源五の三人が出た。そのときは村じゅうがお祭りのような騒ぎをやり、幾夜も祝い酒でにぎわったものだ。
――おかげで青樹村の名も世間へ出る。
――ひとつ三人に大将首でも取ってもらうんだな。
――弥之さんが歳役だ、頼むぞ。
――あとの事はひきうけたからな。
家族も田畑もあとは村じゅうでひきうけた、どんなことがあっても案ずる必要はない、御領主さまのためにしっかり働いて来てくれ、みんなが口ぐちにうるさいほどそう云った。