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くも

蜘蛛

甲賀 三郎

「文学時代」1930(昭和5)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,314 字 · 22 页

青空文庫

設計施工をやった人間は、研究上必要だと信じているのだ。まさかおれが殺人をする目的で、こんな装置をしたとは思っていない。

×月×日

研究はいよいよ蜘蛛ときめた。はじめは蛇にするつもりだったが、蜘蛛類にも猛毒なものがあるからそれを利用することにした。

×月×日

今日深夜ひそかにテストをしてみた。しごく成績がよい。おれがはじめ心配したのは回転速度だった。いったい吾人は等速運動をしている時に、ほかに比較すべきものがなければぜんぜん意識しないものだ。下等動物のうちには、ほかに比較すべきものがあっても平気なものがある。たとえば蠅のごときものは、はしる馬の背にでもじっととまっている。この蠅の習性はかの蠅取器なるものに利用されている。すなわち静かに回転する木片のうえに蠅の好むものをぬっておくと、蠅はそれにとまる。かれは木片がじょじょに回転して、ついにでることのできない穴倉におとしいれられるまで気がつかないのだ。

しかし、人間がはたして外界に比較すべきもののない場合に等速運動に気がつかないかどうか――真の等速運動なら心配はないが、人為的等速運動において――おれはすこし心配だった。