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くも
蜘蛛
甲賀 三郎
「文学時代」1930(昭和5)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,314 字 · 22 页
そこでおれは目撃者を内部におくことにした。この方法は目的どおりSが墜落してから、研究室の移動をさとらしめないことに骨が折れる。しかし、人は異常な出来事のさいには狼狽するものだから、このときには、急激に研究室を原状にもどしても気づかれはしないだろう。
×月×日
とうとう成功した。おれはSをよんでつとめて歓待した。Sは哀れにもいまに死ぬことを知らないで、あいかわらず皮肉をまじえておれを揶揄しながら談笑した。おれはおかしさをかみこらえて、彼に毒蜘蛛の恐るべきことと、最近一匹が逃げだしていまに行方のしれないことを話してきかせてやった。さすがの彼もひじょうに気味悪がっていた。しばらくするとかねてよんであった大学の動物学教室の助手をしているKがやってきた。おれはそっとスイッチをひねって研究室をじょじょに回転させた。だれも気づかない。おれは気づかせまいとして一生懸命に話した。SやKはおれが平素のおれでないのに多少気づいたであろう。
おれはころあいを計ってかねて足許にふせてあったとたてぐもの一種を放した。蜘蛛はのそのそとSの足許にはいよった。毒蜘蛛の話におびえていた彼は蒼くなって突立った。