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ちょうのえ

蝶の絵

久生 十蘭

「週刊朝日別冊 記録文学特集号」1949(昭和24)年9月10日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,644 字 · 49 页

青空文庫

三

あれはジョンゴスが首を絞められて、おおあわてにあわてる真似なんだ」

そんなことをいいながら、忌々しそうに猿のほうを見た。

「むかしなら、それこそ猿臂をのばして、なんでもひったくったもんだが、これでも苦労をしたとみえて、なにか芸をしないと、食べものにありつけないと思いこんでいるらしい。たしかに、おとなしくなったようだ」

猩々の子供は持役は終ったというこなしで、テーブルに飛び移って立膝をすると、乾杏を一つとって山川にわたし、じぶんも一つとって仔細らしく埃をはらってから、老成した恰好で食べ方にかかった。

三

山川は、むかしどおりの家庭の殻に……というよりは、自分というもののなかにとじ籠って、丸く熟した、温室のメロンのような円満な日日を送っているふうだったが、そのころ、山川が、混血児じみた若い娘と、お茶の水の焼跡を歩いているのを見たというものがあった。

学習院の女子部などという、お姫さまのお相手で、さぞ楽だろうと思うかも知れないが、それは見当ちがいで、こんなやりにくい学校もすくない。教師を尊敬しない点でも有名で、何先生は何伯の家来、何々先生は、いぜん何侯の書生をしていたひとだなどと、遠慮なしに戸籍調べをやるのに、先生のほうは、叱ることも出来ず、そのとおりで、と頭をさげている。