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ちょうのえ
蝶の絵
久生 十蘭
「週刊朝日別冊 記録文学特集号」1949(昭和24)年9月10日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,644 字 · 49 页
山川は、自分の蒐集した材料が、願いもせぬような極端な方法で処理されることに当惑を感じていたが、それも敗戦のテンポにあわせていよいよ残忍になり、ふり撒かれる血の量もとめどもなくなって、比島の占領地行政は、惨澹たる形相を呈してきた。
戦争で死にたくないと思ったにしても、自己の安全と安易な生活を、他人の災厄と破滅の中に求めようとまではねがっていなかったが、特殊勤務というものの組織構造のたてまえから、いやになったからといって、離脱することも、やめることもできない。戦争のつづくかぎり、やるほかはないことをさとると、怯懦のむくいの大きさに、いまさらのように愕然とした。
「特殊将校に任命され、望んでいたことがかなえられ、戦争では、絶対に死ななくともすむときまった瞬間から、とりかえしのつかない精神の失墜がはじまった。この仕事の卑劣さを予見することができたら、こんなにまで心の平和を乱され、昼も夜も、血だらけの幻想に悩まされなければならないということを知っていたら、こんな割にあわない任務を選びはしなかったろう。そのころ、偶然、ヴィルドラックの詩を読んだ。……こんなことなら、最初の戦闘の、最初の戦死者になればよかった……やるせないほど後悔しているときだったので、この詩句は、強く心をうった。