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はえおとこ

蠅男

海野 十三

「講談雑誌」1937(昭和12)年1月号~10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,129 字 · 237 页

青空文庫

帆村はソッと腕時計を見た。話をはじめてから、まだ四十秒!

「オイ帆村君。君は美しい令嬢糸子さんと、俺の手紙とをたしかに受取ったろうネ」

「ええどっちとも、確かに」

「ではあのとおりだぞ。貴様はすぐにこの事件から手を引くんだ。俺を探偵したり、俺と張り合おうと思っても駄目だからよせ。糸子さんは美しい。そして貴様が約束を守れば、俺はけっして糸子さんに手をかけない。いいか分ったろうな」

「仰有ることはよく分りましたよ、蠅男さん。しかし貴下は人殺しの罪を犯したんですよ。早く自首をなさい。自首をなされば、僕は安心をしますがネ」

「自首? ハッハッハッ。誰が自首なんかするものか。――とにかく下手に手を出すと、きっと後悔しなければならないぞ」

「貴方も注意なさい。警察では、どうしても貴方をつかまえて絞首台へ送るんだといっていますよ」

「俺をつかまえる? ヘン、莫迦にするな。蠅男は絶対につかまらん。俺は警察の奴輩に一泡ふかせてやるつもりだ。そして俺をつかまえることを断念させてやるんだ」

「ほう、一泡ふかせるんですって。すると貴方はまだ人を殺すつもりなんですね」

「そうだ、見ていろ、今夜また素晴らしい殺人事件が起って、警察の者どもは腰をぬかすんだ。