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はえおとこ
蠅男
海野 十三
「講談雑誌」1937(昭和12)年1月号~10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,129 字 · 237 页
いまに活動や芝居がはねて、群衆が新世界からドッと流れだしたときには、警官隊はどうしてその夥しい人間の首実検をするのであろうか。恐らく蠅男は、その閉場の時刻を待っているのであろう。
怪漢蠅男ほど頭の働く悪人は聞いたことがない。彼奴はすこぶるの知恵者であり、そして云ったことを必ず実行する人間であり、そして人一倍の見栄坊だ。彼はどうしても今夜のうちに、異常なセンセイションをひき起す殺人を実演してみせるに違いない。だからこの一画のなかに縮こまっているなんて、そんな筈がないのだ。
その蠅男と、彼帆村とは、きょうはじめて口を利きあった。それは電話でのことであったが、特筆大書すべき出来ごとだった。
糸子をかえしてよこして、彼に探偵を断念しろというところなんか、実に凄い脅迫である。彼は今、やっぱり探偵根性をもって、蠅男のあとを嗅ぎまわっているが、これが蠅男に知れずにはいまい。そのときこそ、彼は一大決心を固めなければならない。蠅男の知恵には、さすがの彼も全く一歩どころか数歩をゆずらなければならない。
こうしているうちにも、蠅男は誰かの胸もとに鋭い刃をジリジリと近づけつつあるのではあるまいか。