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はえおとこ

蠅男

海野 十三

「講談雑誌」1937(昭和12)年1月号~10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,129 字 · 237 页

青空文庫

「正木さん、オイ正木さんは居らんか」

ドクトルは住吉署長の名をしきりと呼んだ。

なにごとだろうと、正木署長は自動車のところへ駆けつけた。

「おお正木さん。ねえ、冗談じゃないよ。君たち、こんなところで非常警戒していても何にもならせんよ。蠅男はすでにさっき現われて、儂の大切な友人を殺し居ったぞ」

「えッ、蠅男が現われたと……」

誰も彼もサッと顔色をかえた。

「誰が殺されたんです」

帆村が反問した。

「殺された者か。それは儂の友人、塩田律之進じゃ。それはまだいいとして、殺したのは誰じゃと思う」

「蠅男ではないんですか」

「あれが蠅男なんだろうな」ドクトルは小首を傾け、

「とにかく捕ったその蠅男は、さっき儂と一緒の車に乗っていた村松という検事なんじゃ」

「ええッ、村松検事が……」

「塩田先生を殺したというのですか」

「そして検事が蠅男だとは、まさか……」

一同はあまりのことに腰を抜かさんばかりに愕いた。村松検事があの恐るべき蠅男だったとは、誰が信じようか。しかしドクトルの言葉は、出鱈目を云っているとは思われない。どこかに間違いがあるのであろう。一体どこが間違っているのか?

間違っていないことは、帆村にいったとおり、それが誰にもせよ「蠅男」