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はえおとこ
蠅男
海野 十三
「講談雑誌」1937(昭和12)年1月号~10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,129 字 · 237 页
て汗をふいた。
「なんという怪奇!」
帆村は疲労を一本の莨にもとめて、うまそうに紫煙をくゆらせながら、呟いた。今しがたのあの恐ろしい格闘の光景を思い出すと、また急に気が遠くなりそうであった。彼は随分これまで狂暴な殺人犯人にも出会ったが、いくら狂暴でも獰猛でも、この怪奇なる組立て人間「蠅男」に較べると作り物の大入道ほども恐ろしくはなかった。怪物蠅男の出現は、人間の常識を超えている! 神か、魔か? どうしてこんな奇異な人間が存在し得るのか?
それにしても、蠅男が鴨下ドクトルに化けていたのを今迄誰も知らなかったとは、なんという迂濶なことだろうか。帆村も、それを真逆今日になって発見しようとは考えていなかった。丁度旅から帰ってきた鴨下カオルと上原山治と一度会ったとき、不図放った帆村の質問から、偽ドクトルの仮面が剥げはじめたのである。しかもその話の最中に二人の若き男女は、偽ドクトルに呼ばれて、この階上に来た筈であるが、怪しくも何処へ行ったものか、影さえ見えない。帆村はそれを蠅男の狂悪性と結びあわせて、思わずブルブルと身慄いを催した。
「こうしちゃいられないぞ」
帆村は吸いつけたばかりの二本目の莨を灰皿に捨てて、スックと立ち上った。