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はえおとこ
蠅男
海野 十三
「講談雑誌」1937(昭和12)年1月号~10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,129 字 · 237 页
帆村は咄嗟にヒラリと安楽椅子の上にとび上った。そして手にしたピストルを下に向けて、ドドドーンと乱射した。
「ぎゃッ。――」
と、途端に聞ゆる悲鳴、素破ピストルの弾丸が命中したかと思った刹那、傍らの壁に突然ポッカリと丸窓のような穴が明き、蠅男の右腕がまずポーンと飛びこむと、続いて首と胴が、更に鋼条でつながれた二本の義足が、蛇が穴に匍いこむようにゾロゾロッと入ってゆく――。
「こら、待てッ。――」
と、帆村はピストルを其の場になげだし、折しも穴を潜ろうとする蠅男の一本の足に素手で飛びついた。そうはさせじと蠅男の脚は、恐ろしい力で穴の中へ帆村の身体もろとも引張りこもうとする。エイヤエイヤと、とんだところで蠅男と帆村との力較べが始まったが、やがてギィーッと奇異な音がして帆村探偵は呀ッという間もなくドーンとうしろにひっくりかえる。
パタンと丸窓の閉まる音。
ムックリ起き上った帆村の手には、奇妙な物が残った。それは人間の足首そっくりに作られた鋼鉄とゴムとを組合わせた左の義足だった。
帆村は死人のように青褪め、この奇妙な分捕品を気味わるげに見入った。
折よくそこへ、正木署長が一隊の腕利きの警官をひきつれて駈けつけ、扉を蹴破ってくれたので、帆村は蠅男の追跡を署長に委せ、彼は暫くの休息をとるために、室内の安楽椅子に腰を下ろし