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はえおとこ

蠅男

海野 十三

「講談雑誌」1937(昭和12)年1月号~10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,129 字 · 237 页

青空文庫

帆村の身体は、いまや軽々と自由になった。

砂の中にもぐりこんだ蠅男の苦しそうな呻き声。だが不死身の蠅男のことであるから、そう簡単に、砂の中で往生するかどうか。

蠅男は、まるで怒った牡牛のように暴れだし、あたりに砂をピシャンピシャンとはねとばした。この怪魔に対し果して帆村に勝算ありや!

輝かしい凱歌

お竜が腰をおさえ、歯をくいしばっているのは、帆村にとってたいへん幸いだった。

帆村は素速く蠅男の背後にまわると、湯交りの砂の中にもがく蠅男を、うしろからグッと抱きあげた。

「ううぬ」

と蠅男は満身の力をこめて、抱えられまいと蝦のようにピンピン跳ねまわった。これを放してはたいへんである。帆村は両腕も千切れよとばかり、不気味な肉塊を抱きしめた。

蠅男は蛇のように首を曲げて、帆村の喉首に噛みつこうとする。

「もうこっちのものだ。じたばたするだけ損だぞ」

この言葉が蠅男の耳に入らばこそ、怪魔はなおも激しく抵抗する。さすがの帆村も、その大力に抗しかねて、押され気味となった。

だが帆村にはまだ、自信があった。

彼は蠅男を抱きしめたまま、悠々と砂風呂の出入口から外へ出た。