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はえおとこ

蠅男

海野 十三

「講談雑誌」1937(昭和12)年1月号~10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,129 字 · 237 页

青空文庫

「ほう、君の手に持っているのは、映画台本なのかネ」検事はパイプを口に咥えたまま、帆村の方に近よった。

「ええ、こいつは、暗号で書いてある映画台本ですよ」と帆村は二枚の脅迫文を指し、「どうです。第二の脅迫状には、宛名が玉屋総一郎へと書いてあって、第一の脅迫状には宛名無しというのは、これはどういう訳だと思いますか」

検事はパイプから太い煙をプカプカとふかし、

「――それは極めて明瞭だから、書く必要がなかったんだろう」

「極めて明瞭とは?」

「それを説明するのは、ここではちょっと困るが――」と、室の隅に立たされている鴨下ドクトルの令嬢カオルと情人上原山治の方をチラリと見てから、帆村の耳許にソッと口を寄せ、「――いいかネ。この邸にはドクトルが一人で暮しているのに、宛名は書かんでも、誰に宛てたか分るじゃないか」

「ほう、すると貴下は――」といって帆村は村松検事の顔を見上げながら、「――この脅迫状がドクトルに与えられたもので、そしてアノ――ドクトルが殺されたとお考えなんですネ」

「なんだ、君はそれくらいのことを知らなかったのか。あの燃える白骨はドクトルの身体だったぐらい、すぐに分っているよ」