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はえおとこ

蠅男

海野 十三

「講談雑誌」1937(昭和12)年1月号~10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,129 字 · 237 页

青空文庫

だから彼は、この場合、臭気の源を程近い所と推定したのだった。

では近いとすれば、このような臭気を一体何処から出しているのだろう?

帆村は再び踵をかえして、臭気が一番ひどく感ぜられた地区の方へ歩いていった。それは丁度或る町角になっていた。彼はそこに突立ったまま、しばらく四囲を見まわしていたが、やがてポンと手をうった。

「――おお、あすこにいいものがあった。あれだ、あれだ」

そういった帆村の両眼は、人家の屋根の上をつきぬいてニョッキリ聳えたっている一つの消防派出所の大櫓にピンづけになっていた。

あの半鐘櫓は、そもいかなる秘密を語ろうとはする?

灰色の奇人館

「オーイ君、なにか臭くはないかア」

と、帆村は櫓の下から、上を向いて叫んだ。

上では、丹前に宿屋の帯をしめた若い男が、櫓下でなにか喚きたてているのに気がついた。といって彼は当番で見張り中の消防手なのだから、下りるわけにも行かない。そこでおいでおいでをして、梯子を上ってこいという意味の合図をした。

「よオし、ではいま上る――」

帆村荘六は、そこで尻端折りをして、冷い鉄梯子につかまった。そして下駄をはいたまま、エッチラオッチラ上にのぼっていった。