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はえおとこ

蠅男

海野 十三

「講談雑誌」1937(昭和12)年1月号~10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,129 字 · 237 页

青空文庫

「いいえイナ。こないな妙な臭は、今朝が初めてだす」

「そうかい。――で、この辺から一番近い火葬場は何処で、何町ぐらいあるネ」

「さあ、焼場で一番ちかいところ云うたら――天草だすな。ここから西南に当ってまっしゃろな、道のりは小一里ありますな」

「ウム小一里、あまくさですか」

「これ、天草の焼場の臭いでっしゃろか」

「さあ、そいつはどうも何ともいえないネ」

帆村は「行っておいでやす」の声に送られて、ブラリと外に出た。別に彼は、この朝の臭気を嗅いで、それを事件と直覚したわけでもなく、またこんな旅先で彼の仕事とも関係のないことを細かくほじくる気もなかった。けれど、彼の全身にみなぎっている真実を求める心は、主人公の気づかぬ間に、いつしか彼を散歩と称して、臭気漂う真只中に押しやっていたのだった。

それは一種香ばしいような、そして官能的なところもある悪臭だった。彼は歩いているうちに、臭気がたいへん濃く沈澱している地区と、そうでなく臭気の淡い地区とがあるのを発見した。

(これは案外、近いところから臭気が出ているに違いない!)

臭気の源は案外近いところにある。もしそれが遠いところにあるものなれば、臭気は十分ひろがっていて、どこで嗅いでも同じ程度の臭気しかしない筈だった。