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はえおとこ

蠅男

海野 十三

「講談雑誌」1937(昭和12)年1月号~10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,129 字 · 237 页

青空文庫

私もこの室から、朝まで出てゆかんつもりや、よろしまっしゃろな」

「承知しました。――すると朝まで、御主人はどうしてはります」

「十二時すぎたら、此処に用意してあるベッドにもぐりこんで朝方まで睡りますわ」

「さよか。そんならお大事に、なにかあったら、すぐあの信号の紐を引張るのだっせ」

「わかってます。――そんならもう扉を叩かんようにお頼み申しまっせ。蠅男が来たのか思うて、吃驚しますがな」といって総一郎は言葉を切ったが、また慌てて声をついで、「――それからあのウ、池谷与之助は帰って来ましたやろか。そこにいまへんか」

「ああ池谷はんだっか。さあ――」と署長は後をふりかえって、警官の返事を求めたあとで、「どこやら行ってしもうたそうや。うちに居らしまへんぜ」

「ああそうでっか。おおきに。――そんならこれで喋るのんはお仕舞いにしまっせ」

帆村は、さっきからしきりと両人の扉ごしの会話に耳を傾けていたが、このとき首を左右に振って、

「――喋るのはお仕舞いにしまっせ、か。これが永遠の喋り仕舞いとなるという意味かしら。ホイこれは良くない卦だて」

といって、大きな唇をグッとへの字に曲げた。