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はえおとこ
蠅男
海野 十三
「講談雑誌」1937(昭和12)年1月号~10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,129 字 · 237 页
のフィルムを売ったんや」
「へえ、売った。――この遊戯室の活動のフィルムは誰にでもすぐ売るのかネ」
「すぐは売られへん。本社へ行って、あの人のように掛合って来てくれんと、あかんがな」
「そうかい。――で、あの『人造犬』のフィルムは、もう外に持ち合わせがないのかネ」
「うわーッ、今日はけったいな日や。今日にかぎって、この一銭活動のフィルムが、なんでそないに希望者が多いのやろう。――もう本社にも有らしまへんやろ。本社に有るのんなら、あの人も本社で買うて帰りよるがな」
係りの男はぶっきら棒な口調で、これを云った。
帆村は、あのフィルムが一本しかないと聞いて、急に池谷医師の後を追いかける気になった。訳はよく分らんが、とにかくどうも怪しい行動である。もしあれを見ているのが自分でなくて正木署長だったら、池谷医師はその場に取り押さえられたことだろう。
帆村荘六は、もう骨休みも商売根性を批判することもなかった。彼は平常と変らぬ獲物を追う探偵になりきっていた。
新温泉の出口へ飛んでいった彼は、下足番に、今これこれの二人連れが帰らなかったかと聞いた。下足番は今ちょっと先に出やはりましたと応えたので、帆村は急いで温泉宿の下駄を揃えさせると、表へ飛びだした。