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せいこのしじん

西湖の屍人

海野 十三

「新青年」博文館、1932(昭和7)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,487 字 · 39 页

青空文庫

女史は、自分の胸のあたりに両腕を組むようにしてそこらを撫でるのだった。

「わかりますか、先生、胸のところに、乳房がありましょう」

「ほほウ、これはおかしい」女史は自分の乳房を着物の上からギュッと握りしめて不審気であった。

「先生は、幅の広い帯をしめて居られる。太腰のまわり、柔らかい膝、そして先生の頭には、豊かな黒髪がある!」

曽我貞一の言葉につれて、女史は手を動かして、或は腰のまわりに恐ろしそうに触れ、膝を押していたが、最後に両手をあげて、房々とした束髪を抑えたときに、

「キャッ」

と一声喚いた。女史は極度に興奮してその場に立ちあがろうとするのを、隣席の老人は笑いながら後から抱きついて止めた。

「呀ッ、これは女の身体だッ。女の身体だッ。おお、わしの身体を、何処へやった。わしの身体をかえせ!」

女史は、裾の乱れるのも気がつかず、われとわが身を、かきった。

「先生、合点がゆかれましたか」曽我貞一が憎いほど落付いた態度で云った。「先生の身体は、もう亡くなっているのです。それは、先生の霊を生前の世へお迎えするために使っている霊媒の御婦人の身体なのです。お判りですか」