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なぞのおんな

謎の女

平林 初之輔

「新青年 第一三巻第一号」1932(昭和7)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,077 字 · 18 页

青空文庫

ベッドが並んでいなくて、まあよかったと龍之介は思った。道子もそう思ったらしかった。

ボーイが道子の大型のスーツケースと、龍之介の鞄とをおいて出てゆくと、道子は一つのベッドの端に腰をかけて言った。

「ベッドが並んでいなくてよかったとお思いになったでしょう?」

「ええ」龍之介は笑いながら答えた。

「もし並んでたらどうなさるつもりだったの?」道子は相手の心のうちを見すかしたようにずけずけ言った。

「そうだったら困っちまったとこでしたね」

「そうしたら、せっかく並んでいるのをわざわざひきずって、一間もはなすおつもりじゃなかったの?」

「そんなことをしたかもしれませんねえ」

「だって、お互いの気持ちさえ光風霽月ならベッドが並んでたってかまわないじゃないこと? そう仰言ったじゃないの昨日」

龍之介は、相手の心理の動きを一歩一歩先まわりするような、道子のこうした話し方に壁易した。これはかなわんと思った。と同時にその大胆で、知性の閃きのある、洗練された会話にひそかに魅力をも感じた。この女が独身の自由な身だったら、彼はこんな女に恋しただろうと思った。彼女の彼に対する話しかたは、ほとんど刻々と言ってもいいくらいに親密の度を加えていって、いつのまにかなれなれしい程になった。