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なぞのおんな
謎の女
平林 初之輔
「新青年 第一三巻第一号」1932(昭和7)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,077 字 · 18 页
八
八
その夜、龍之介はワイシャツ一枚になってベッドに寝ころんだまま新聞を読んでいた。何となく気が落ちつかないで仕事が手につかなかった。
下の街路ではたえず、電車や自動車の騒音がしていた。東京駅つづきの高架線には、列車がしょっちゅう行ったり来たりしていた。
室内の温度は華氏八十度に近く、龍之介は毛糸のシャツを着ていたので、肌がじっとり汗ばんだ。
「僕浴衣と着替えてもいいですか、貴女もお着替えになったら?」龍之介は新聞を投げだして、起きあがって言った。
「どうぞ」
道子は座ったまま煙草をふかしていた。彼女はこのホテルに着いてからつづけさまに、大っぴらで煙草をふかしていた。
「貴方もお着替えになって、おやすみになったら? もう十一時過ぎましたよ」
「ええどうぞお先へ」
龍之介は洋服をぬぎっぱなしにして椅子の上へ丸めておいて、ホテルの浴衣を着た。室内の温度は、ちょうどいい加減だった。
「貴方、ジェントルマンは、毎朝プレスしたパンツだけは、お召しになっていただきたいわ」
道子は龍之介が脱ぎ捨てた衣類を畳みかかった。
「いいですよ、そのままにしといて下されば」
「よかありませんよ、あなたはよくたって、妻のあたしはよかありませんよ」