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なぞのおんな

謎の女

平林 初之輔

「新青年 第一三巻第一号」1932(昭和7)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,077 字 · 18 页

青空文庫

彼もそれに応じた言葉使いをしようと思ったが、どうもぎこちなくなりがちだった。

「僕、貴女をすきになったらどうします?」

龍之介は、道子の、ほとんど高圧的な言葉に対抗しようと思って、相手の度肝をぬくつもりで言った。

「いまだってすいてらっしゃるじゃないの、ちがうかしら?」

「それじゃ、もし貴女を恋するようになったら?」

「結構ですわ、あたし愛されること大好きですわ、愛してちょうだいね、どうぞ」

「そうしたら貴女も僕を愛して下さる?」

「そりゃわからないわ、神様でなくちゃ。恋愛というものはインスピレーションでしょう、不意に、自分でも気のつかないうちに愛しているものなんでしょう。そうなったら、愛しちゃいけないと思ったって防ぎきれるもんじゃないでしょう」

龍之介はつまらないことを言ったのを恥じた。そしてこういう女は愛しないことにしようと、ひそかに決心した。

「貴方、あたしを恐くなったでしょう? きっとそれにちがいないわ。でもあたしそんなに恐い女じゃなくってよ」

龍之介は図星をさされて、ほんとうにこの女が気味わるくなった。そして素性も名前も知れない女と、奇妙な一時的な同棲生活を送ろうとしている自分を顧みて狐につままれたような気がした。