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なぞのおんな
謎の女
平林 初之輔
「新青年 第一三巻第一号」1932(昭和7)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,077 字 · 18 页
妻という言葉をきいたとき、龍之介は、柔らかいもので身体をつつまれるような気がした。実際、彼女が、彼の脱ぎすてたくしゃくしゃの衣類を整理しているところは、どう見ても家婦だった。
道子は、龍之介の洋服を片付けてしまうと、今度は自分のローブを脱ぎはじめた。彼女が脱いだローブをみだれ箱の中へ畳んで入れて、コンビネーションとシュミーズだけになって、ベッドの端に腰をかけてシルクの靴下をぬいでいるところを、彼は眼を細くあけて見ていた。
それから彼女は、素足にスリッパを穿いて化粧鏡の前に立った。それから彼女は軽快に眉をひいたり、ルージュをつけたりした。龍之介は、時々その方を細眼で見ないではいられなかった。うすいシュミーズの下にふっくりした肉の輪郭が生き生きと動いているのが感じられた。
龍之介は悩ましくなって眼をつぶった。しかし、眼の底に残像がはっきりと残っていた。何だか、ぬらぬらしたものが、彼の皮膚の上に匍いまわるような気がした。