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とうふかい
豆腐買い
岡本 かの子
「三田文学」1934(昭和9)年6月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,329 字 · 29 页
まだあの店はあるだろうか。永らく孀暮しをしていて、一人で豆をひいていたのだったが世話する者があって夫婦養子をしたところが入籍してしまってから養子たちは養母をひどくいじめだしたという近所の噂だった。その癖、その養子たちは人の好さそうなポカンとした顔つきをしていて、むしろいじめられる養母の方が鬼瓦のようなきりょうの年増であったが。
車の蔭に古簾が見え出して角の中に琴という字が書いてあった油障子はペンキ塗りの硝子戸に変っているが相変らず、さらし袋のかかっている店先の山椒の木の傍で子供が転んで泣いている背中を親鶏とヒヨコがあわてて跨いで行く。
――しばらく。
加奈子は古簾に手をかけた。
――いらっしゃい。おや珍らしい。
そこに居たのは孀のお琴だ。手にビールのコップを持っている。
――みんな御無事?
――は は は は は とうとうあの鬼奴らを追出してやりましたよ。裁判して勝ちましたよ。あんた洋行なすったと聞きましたが、いつお帰り?
ビールを持つ手をやや体の蔭に隠す。
――四日ばかりまえ。
――おや、そうですか。まあどうぞお掛け。
お琴は手まめに上りはなの塵をはたいた。