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とうふかい
豆腐買い
岡本 かの子
「三田文学」1934(昭和9)年6月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,329 字 · 29 页
あたし達はそこの会社の株主でもあり支店でもありますんでね。それから納豆も。
加奈子が差し出した手提げの菓子鉢をしきりに珍らしがったあとでお琴は真鍮の庖丁を薄く濁っている水の中へ差し入れ、ぶよぶよする四角い白い塊を鉢の中へ入れて呉れた。庖丁の腹で塊の頭を押えて大事そうに水を切る。
――おお、恐かった。こんな立派なものへお豆腐なんか入れるのは始めてですからね。ですがこうすると、とても引っ立ちますね。まるでお豆腐には見えませんね。
加奈子が代価を払って店を出かけるときお琴はあわてて立って追って来た。
――あのロンドンにいるとかいうお豆腐屋さんはなかなかよすとか死ぬとかしそうにはありませんかね。
――まあ、どうして。
――いえね。もしそんなことでもあったら一つ向うへ押し渡って豆腐屋でも始めようと思いましてね。男っていうものは割合に変りもの好きですからね。飽きさせないようにするのが一苦労ですよ。とてもうちにはこどもなんか生れそうもありませんからね。
加奈子はこんなおしゃべり婆さんのところにいつまでもいたくなかった。早くお京さんに逢い度かった。お京さんへの土産に買って来た伊太利フローレンス製の大理石のモザイクが小さな箱に納まったブローチとなって加奈子のポケットへ忍ばせてあった。