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とうふかい

豆腐買い

岡本 かの子

「三田文学」1934(昭和9)年6月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,329 字 · 29 页

青空文庫

――お前さん、お帰りかい。あなた、これがうちのです。

その男は横目でお琴のコップを睨みながら、気まずそうに頭を下げた。

――むかしっからよくごひいきにして頂いたんだよ。よくお叩頭してお礼を言いなさいよ。

それから加奈子に向って、

――この人、生意気に頭なんか分けてるんですよ、お婆の、かみさん持ってるくせに。

若い小男は急に頭を持上げて小声で怒鳴った。

――ばかッ――。また酔ぱらったな。

それからさっさと土間からかけてある梯子段で向うむきのまま靴を脱ぎ、メリンスのカーテンの垂らしてある中二階へ上って行った。

――あんなに怒った顔をしていても直ぐに何でもなくなるんですよ。あたしゃ、すっかり男のこつを覚えましてね。今から考えるとやり方によっては先の亭主もあの養子野郎もあんなに増長させずに済んだと思いますよ。一たい男はおとなしい女は嫌いですね。

――おばさんお豆腐をこしらえる道具はどうしたの。

――あなたが洋行して居なさる間に世の中が変りましたね。いまこんな小さい豆腐屋では自分とこで品物はこしらえませんですよ。会社がありましてね、そこで大げさに製らえて分けるんです。