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まずしきひとびとのむれ
貧しき人々の群
宮本 百合子
「中央公論」1916(大正5)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 59,959 字 · 118 页
今日まで、すべきことは沢山あったのに、臆病な自分が見ない振りをして来たのだというような気の済まなさが、農民に対する自分の心を、非常に謙譲なものにしたのである。
甚助の子が、私にいたずらをした次の日であった。平常より早く目を覚まし、畑地を一廻りして来た私はほのぼのと天地を包んでいる薔薇色の靄(もや)や、裸の足の上に朝露をはね上げて、生々としている雑草の肌触り、作物や樹木の朝明けの薫りなどに、どのくらい慰められたことであろう!
非常に愉快な心持になって、女中に笑われながら、大炉に焚火(たきび)をしたり、いりもしない野菜を抜いて来たりしていると、東側の土間に一人の女が訪ねて来た。それは、甚助の女房であった。
私に来てくれと云うので、出て見ると働き着を着て大変にボサボサな髪をした彼女は裸足で立っている。
女は、私の顔を見ると、
「お早うござりやす。昨日(きんのう)は、はあ俺(お)ら家(げ)の餓鬼共が飛んでもねえ御無礼を致しやしたそうでなえ。おわびに出やした。これ! こけえ出てわび云うもんだぞ――」
と、云いながら手を後に伸ばすと、広い背のかげから、思いがけず男の子が引き出された。