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まずしきひとびとのむれ

貧しき人々の群

宮本 百合子

「中央公論」1916(大正5)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 59,959 字 · 118 页

青空文庫

これ! わびしな。勘弁してやっとよ、何とか云いなてば」

と、子供の腕を掴んで、小突(こづ)いたり何かしても、子供の方でもまた強情なだんまりを守っている。

私には、甚助の女房がどんな心持でいるかよく分った。分っただけに、そんな謂(い)わば芝居を見ているのは辛い。

私の云うことなどには耳もかさずに、怒鳴っていた彼女は、

「これ! どうしたんだ? う? おわびしねえつむりなんけ?」

と云うと、いきなり大きな掌で、頸骨が折れただろうと思うほど急に子供の首を突き曲げた。

そして、

「どうぞ御免なして下さりやせ」

と云うや否や、

「行っとれ!」

と叫んで突飛ばした。

私は息がつまるくらいびっくりしてしまった。けれども、当の母親は満足らしく笑いながら小腰をかがめて、

「お暇潰(ひまだ)れでござりやした」

と畑へ出て行った。

下女は彼女の後姿を見送りながら、

「甚助さん家(げ)のおっかあは利口もんでやすなりえ、ちゃんと先々のことー考(かん)げえてる」

と嘲笑った。

五

村の四辻に多勢人立ちがしている。

子供等や、鍬を担いだ男女、馬を牽いた他所村の者共まで、賤(いや)しい笑いをたたえて口々に罵り騒いでいる真中には、両手に魚を一切ずつ握った男が、ニヤニヤしながら足を内輪にして立っているのである。