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まずしきひとびとのむれ

貧しき人々の群

宮本 百合子

「中央公論」1916(大正5)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 59,959 字 · 118 页

青空文庫

そして、非常に突出した、瞬きをすることの少い目玉を据えて、私を見ているような位置になった。

私も彼を見ていた。私はほんとに注意して、観ていたのである。

そうすると、だんだん彼の顔付が凄くなって、仕舞いには、「彼の感じ」がそろそろと私の顔に乗り移って来たような気持がして来た。

もう、私は意地も我慢もなくなった。そして、一散走りに家へ帰ると、力一杯顔を洗い、鏡を見つめて、ようよう気が休まったのである。

最初の試みは、私の例の幻覚ですっかり失敗してしまった。けれども、それから二度目三度目になると少しずつ彼に馴れて来た。

が、やはりだまったまま一緒に立っているか、何か云って彼の注意力をためして見るばかりで、一向進むことはない。

私は彼の囲りを、堂々廻りしているような工合であった。

善馬鹿の子に対しては、全く何も出来なかったけれども、他のことは少しずつ好い方に向いて行った。

足の裏の腫物のために悩んでいた百姓は、町の医者に掛って癒った。

桶屋の娘へは、ときどき牛乳だの魚だのを持たせてやった。

そして、ほんとに下らないことではあるが、癒った男が畑に出ているのを見たり、甚助の子供が、遣った着物を着ているのを見たりすることは、むしょうに嬉しかった。