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まずしきひとびとのむれ

貧しき人々の群

宮本 百合子

「中央公論」1916(大正5)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 59,959 字 · 118 页

青空文庫

これから暫くすると、一番の兄は、まだ朝の食物があっち、こっちに、こびり付いている椀を持って来て、炉の辺に並べた。これから、このホコホコと心を有頂天にさせるような香りのする薯が分けられようと、いうのである。

一つ二つ三つ四つ。一つ二つ三つ四つ。

彼は順繰りに分けていたが、不意に、前後を忘却させたほど強い衝動的な誘惑に駆られて、皆の顔をチラッと見ると、弟達のへ一つ入れる間に、非常な速さで自分の椀に一つだけよけい投げ込んだ。

そして、何気なく次の一順を廻り始めようとしたとき、

「兄(あん)にい、俺(おい)らにもよ」

と、そのとき貰う番の弟が、強情な声で叫んだ。後の者も、真似をして椀をつきつけながら、兄に迫って行った。

兄は、自分の失敗の腹立たしさに、口惜しそうな顔をしながら、突き出された椀の中に、小さい一切(ひときれ)をまた投げ込んでやった。

けれども、初めに見つけたすぐ下の子は、兄のと自分のとを、しげしげ見くらべていた後、

「俺ら厭(や)んだあ! お前の方が太ってらあ」

と云うなり、矢庭に箸をのばして、兄の椀からその太った丸いのを、突き刺そうとした。

物も云わせず、その子供の顔は、兄の平手で、三つ四つ続けざまに殴(ぶ)たれた。