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にせもの
贋物
葛西 善蔵
「早稲田文学」1917(大正6)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,476 字 · 43 页
「あなたはあまり気がよすぎるですよ、……正直すぎる」
こうも言って、彼が他人の感情に鈍感で、他人の恩恵を一図に善意にのみ受取っている迂遠さを冷笑した。「ばか正直でずうずうしくなくてはできないことだ」細君は良人の性質をこうも判断した。
「ばか言え、お前なぞに何が解る……」彼は平気を装ってこう言っているが、やはり心の中は咎められた。……
下の谷間に朝霧が漂うて、アカシアがまだ対の葉を俯せて睡っている、――そうした朝早く、不眠に悩まされた彼は、早起きの子供らを伴れて、小さなのは褞袍の中に負ぶって、前の杉山の下で山笹の筍など抜いて遊んでいる。
「お早うごいす」
暗い中に朝飯を食ってそれぞれ働きに行く村のおやじどもが声をかけて行く。それがまたまじめで、健康で、生活とか人生とかいうことの意味を深く弁えている哲人のようにも、彼には思われたりした。そしてこの春福島駅で小僧を救った――時の感想が胸に繰返された。
「そうだ! 田舎へ帰るとああした事件や、ああした憫れな人々もたくさんいるだろう。そうした処にも自分の歩むべき新しい道がある……」
しかしその救いを要する憫れな人というのは、結局自分自身にすぎなかったことに気がついて、さすがに皮肉を感じないわけに行かないのであった。