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にせもの
贋物
葛西 善蔵
「早稲田文学」1917(大正6)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,476 字 · 43 页
我と底抜けの生活から意味もなく翻弄されて、悲観煩悶なぞと言っている自分の憫れな姿も、省られた。
閉店同様のありさまで、惣治は青く窶れきった顔をしていた。そしてさっそくその品物を見せるため二階へ案内した。
周文、崋山、蕭伯、直入、木庵、蹄斎、雅邦、寛畝、玉章、熊沢蕃山の手紙を仕立てたもの、団十郎の書といったものまであった。都合十七点あった。表装もみごとなものばかしであった。惣治は一本一本床の間の釘へかけて、価額表の小本と照し合わせていちいち説明して聴かせた。
「この周文の山水というのは、こいつは怪しいものだ。これがまた真物だったら一本で二千円もするんだが、これは叔父さんさえそう言っていたほどだからむろんだめ。それから崋山、これもどうもだめらしいですね。じつはね、この間町の病院の医者の紹介で、博物館に関係のあるという鑑定家の処へ崋山と木庵を送ってみたんだが、いずれも偽物のはなはだしきものだといって返して寄越したんです。僕ら素人眼にも、どうもこの崋山外史と書いた墨色が新しすぎるようですからね」
しかし耕吉の眼には、どれもこれも立派なものばかしで、たいした金目のもののように見えた。